子どもがいる家庭だと、離婚をする際に養育費の話し合いもしなければなりません。特にその「金額」については今後互いの経済状況を大きく左右する要因となりますので、慎重に設定する必要があります。

ただ、今後何が起こるかわかりません。生活に大きな変化が生じ、取り決めた金額では足りなくなることも起こり得ます。このとき、子どもの健全な成長のためにも養育費の増額要求を行うことが考えられますが、認められるかどうかは変化した事情次第でもあります。

そこでこの記事では増額要求が認められやすいケースを紹介し、増額するための手続きの方法、増額を成功させるために知っておきたいポイントを解説していきます。

増額要求が認められるケース

養育費の増額要求が認められるのは、必要な養育費が増したときや養育費の受け取り手の収入が減ったときなど、大きな事情の変化があったときです。

養育費が増えた

増額要求が認められやすい事情として「養育費の増加」が挙げられます。

例えば、子どもが進学したことにより必要な教育費が増えた、子どもが塾や習い事を始めたため今の養育費では足りなくなった、子どもが病気を患って医療費が想定外に増えた、といったことが起こり得ます。

養育費と言えるものであればなんでも要求できるわけではありませんが、子どもが成長していくために必要なものが予想外に増えてしまったという事情があるのなら、増額は受け入れられやすいです。

受け取り手の収入が減った

支出する教育費等に変化がなくても、収入が減ると相対的に子どもにかかる費用の負担が大きくなります。そして大幅に収入が減ってしまったときには十分な教育環境等を提供することができなくなるおそれも出てきます。

そこで、怪我や病気によって働けなくなった、リストラに遭って収入がなくなった、という変化があったのなら増額要求は認められやすいです。

増額要求の手続き方法

上のような事情の変化がある場合、まずは増額をしてもらえないかと相手方に交渉を持ち掛けてみましょう。この当事者間の協議で増額ができない、その他条件に納得ができないことがあれば裁判所で調停を行います。さらに調停でも無理なら審判手続へと進みます。 各ステップの内容を見ていきましょう。

増額について相手方と直接話し合う

調停などの手段もありますが、まずは個人間で協議を行い、増額を求めましょう。話し合いで解決できれば公的手続にかかる手間や労力、費用なども負担する必要がありません。このことは双方にとってのメリットです。

増額要求にあたって内容証明郵便を利用すれば、郵便の内容や発送した日・受け取った日を証明できるようになりますのでおすすめです。

ただし、いきなり内容証明郵便を出すと攻撃的な印象を与えるおそれもあります。そこで可能なら一度増額して欲しい旨を伝えておき、穏便に事を進められるようにすることも大切です。

ただ、離婚した理由によっては相手に会いたくないと考えることもあるでしょう。また直接話し合いをしても受け入れてくれないことが明らかなケースもあります。

このような場合には弁護士に頼んで代わりに請求をしてもらうと良いです。

増額要求の調停を申し立てる

家庭裁判所に対して、養育費の増額を求めて「調停」という手続を申立てることもできます。調停委員が双方の意見を聴き、法的にも有効な解決案の提示、その他穏便な解決に向けた手続進行を行ってくれます。

元夫婦のみの場だと受け入れてくれにくい内容でも、間に調停委員が入ることによって感情的にならず落ち着いて意見のやり取りを行うことも可能となります。結果としてこの調停で解決できるケースは多いです。 なお、申し立てにあたっては以下のものを準備する必要があります。

申し立てをする裁判所は相手方住所が基準になる点にも注意しましょう。ご自身の住むエリアが基準になるわけではありません。

審判による判断を受ける

調停によりほとんどの問題は解決できるのですが、いずれかが「絶対に受け入れられない」と拒絶反応を示していると調停で終結させることはできません。裁判所を利用する手続ではあるものの、終結には当事者の合意が必要とされているからです。

そこで養育増額の審判に手続が移行します。審判では裁判所が主体的に手続進行を担うことになり、当事者の役割も大きく変わります。結論付けるのは裁判所になりますので、当事者はその判断材料を適式に提供することに専念します。

増額要求にあたり知っておきたいポイント

増額要求を成功させるには以下のポイントを知っておくことが大切です。

一定要件を満たす「事情変更」の存在

もっとも重要なポイントは、法律が定めている要件です。

民法では、ある事情の変更があれば扶養に関する協議等の内容につき変更ができる旨規定しています。養育費に関しても同様に考えることができ、一定の「事情変更」に該当するのであれば調停や審判においても自らの意見が通りやすいと言えます。

そこで、「定めた扶養関係を維持することがもはや相当ではないと認められる程度に重要な変化」であること、「その事情の変化につき予測ができなかった」こと、そして「その変化が当事者の責めに帰する事由に起因しない」、「養育費の金額を変える必要がある」と認められなければなりません。

支払時期を伸ばすことも可能

大きな事情の変化があると認められるような場合でも、「養育費の増額」が唯一の解決策とは限りません。例えば「支払時期の延長」により解決できることかもしれません。

例えば大学の進学に伴い養育費の増額を求めようとしている場合において、双方の経済状況を鑑み、養育費の支払いの終期を遅く設定し直すことで対処できる可能性があります。

話し合い後の合意書は公正証書として作成する

話し合いで増額についての合意が取れれば無事問題は解決となります。

ただ、口約束だけで終結させるべきではありません。少なくとも書面として約束内容を取りまとめておく必要があります。後から「そんな約束はしていない」と言いだすおそれがあり、こうした主張をされたときに約束内容を証明するものが何もなければ相手方の主張が通ってしまいやすくなります。

さらに、書面は公正証書として作成しておくことが望ましいです。よりトラブルを防ぎやすくなりますし、養育費の確保もしやすくなります。

というのも、公正証書化しておけば養育費に関する債務者である相手方がその義務を履行しないときに強制執行をすぐにできるようになるからです。迅速に、給料や預貯金その他財産を差し押さえることにより支払われていないお金を回収することができます。

実際、養育費が不払いになるケースは多いです。離婚後しばらくは問題なく支払いがされていたものの、年月を経てきちんと支払ってくれなくなって困っているという方も多く存在します。そのためもしもの場合に備えて公正証書を作成することも覚えておきましょう。

作成にあたっては公証役場に対して申し込みをし、当事者双方が出頭、そして署名押印しなければなりません。手間と費用がかかりますが、将来の安心を得るために必要な過程であると捉えておきましょう。

調停や審判で用いられる養育費の相場について

調停および審判では、「養育費の相場」が観念されます。特に決着が当事者の意向によらない審判ではこの相場が非常に重要な存在となります。

金額は互いの年収に応じて算定され、例えば互いに平均的な年収を得ている会社員である場合だと概ね「月2~4万円」あたりが相場です。支払義務者の年収が少ないほど相場は下がり、年収が多いほど相場は上がります。他方、支払義務者の年収が一定でも、受け取り手の年収が低いのなら多め、受け取り手の年収が高いのなら少なめで相場が設定されています。

増額が必要な理由を説得的に伝えること

年収から見た相場にぴったり合っているかどうかが増額可否を分けるわけではありません。実際、相場から外れているからとの理由のみでは、増額や減額を求めても受け入れられないと考えられています。

当事者間で交わした約束のほうが尊重されるからです。

そこで養育費の増額に関して相手に納得してもらう、あるいは裁判官に認めてもらうには、増額の必要性が客観的に判断できるよう説得的に事情の変化を伝えることが大切です。

例えば収入が減ったことに関して口で伝えるだけでは本当かどうかがわかりません。収入額を証明できる資料を準備してそれを相手方あるいは裁判所に提示することが必要です。併せてその理由についても正当であることがわかるような資料を準備すべきです。怪我や病気をきっかけに収入が減ったのであれば、そのことが示せるものも用意した方が認められやすいでしょう。

交渉は弁護士を介して行うこと

証拠の準備を慣れない方が対応するのは大変です。何が重要なのか、どのような点に着目する必要があるのかがわかりません。闇雲に集めるのではなくポイントを押さえて交渉を持ち掛けることで効率的かつ着実な増額が可能となるでしょう。

その観点からは弁護士への依頼が推奨されます。弁護士に依頼し、弁護士を介して相手方と交渉を行うことで増額の成功率は上がります。必要書類の準備なども代わりに進めてくれますので、忙しい方にとって大きなメリットとなるでしょう。

個人的な交渉から調停、審判に至るまで総合的にサポートを受けることができ、安心感も得られます。「養育費の増額要求をしたいけど、どうすれば良いのかわからない」「相手が意見を聞いてくれず困っている」という方は、まずは弁護士に相談をしてみると良いでしょう。