子どもがいる場合、離婚時に養育費に関する取り決めを行います。子を監護しない親はそのときの取り決め内容に従い、別居後一定金額を支払うことになります。

しかし「同じ金額を支払い続けるのが難しい」、あるいは「もうその金額を支払う必要はないのではないか」という思う事情も出てくるかもしれません。こういった状況下では養育費の減額請求を検討することになるでしょう。

ただ、この請求は認められることもあれば認められないこともあります。ここで各ケースを紹介していきますので、ご自身の置かれている状況において請求が認められそうかどうか考えてみると良いでしょう。

減額請求が認められるケースとは

民法では、扶養の義務等につき以下の規定を置いています。

第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

引用:e-Gov法令検索 民法第880条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

直接「養育費」という文言が記載されているわけではありませんが、広義には養育費も扶養のための費用と捉えることができますし、実際裁判でも養育費に関してこの条文を準用しています。そこで、事情の変更があったときには養育費の変更をすることが可能であると解釈することができます。

ここでポイントになるのが、「何をもって同条にいう『事情の変更』と評価するのか」という点です。法律上は、以下の要件を満たすことが必要と考えられています。

  1. 養育費に関する取り決めの前提とされていた客観的事情に変化があった
  2. 事情が変わることに関して当事者は予想することができなかった
  3. 事情が変わったことに関して当事者に責任がない
  4. 養育費に関する取り決め通りに支払義務を強いることが著しく公平に反する

以下で、減額請求が認められる余地のある具体的な事例を挙げていきます。

収入が減った

養育費の支払い義務を持つ側の「収入が減った」という事情を理由に減額請求が認められる可能性があります。

当然、予見可能な範囲内で収入が減っても請求は認められません。例えば離婚や子どもとの別居により生ずる手当の減額、あるいは残業時間の差から生ずる若干の収入の変動などがあったからといって常に認められるものではありません。

逆に、会社の業績が悪化して倒産、職を失ってしまった、という場合には請求が認められやすいです。病気や怪我を負って収入が減ることもあるでしょう。これらの事情は通常予見ができないため減額請求が認められやすいです。

また、個人事業主・フリーランスなどは毎月一定額が入ってくるわけではないためある程度の変動に関しては予見ができるものと考えられます。しかしながら、こうした立場にあるからという理由のみをもって大幅な収入変動も受け入れなければならないわけではありません。予見可能な範疇を超えて収入の減少が起こったのであれば請求が認められる余地はあると言えます。

扶養すべき人数が増えた

養育費の支払い義務を有する側で、「扶養すべき人数が増えた」という変化が起これば、これを理由として減額請求が認められる可能性があります。

例えば再婚相手との間で子どもが生まれた、再婚相手の子どもと養子縁組をした、といったシチュエーションです。養育費の受け取り手としては納得がいかないかもしれませんが、同じ収入額から出せる養育費には限界がありますし、新たに養育される子どもの権利も守らなければなりません。

ただし、再婚したというだけで養育費の支払い義務がなくなるわけではありませんし、再婚相手の収入も減額請求の可否に関わってきます。傾向としては、再婚相手に収入がなければ認められやすく、収入があるのなら認められにくいです。

元配偶者の再婚相手が子どもと養子縁組をした

上の例とは反対に、元配偶者が再婚をすることもあるでしょう。

この場合、支払義務を負う側に事情の変更がなかったとしても減額請求が認められる可能性があります。

ただし、「再婚相手が子どもと養子縁組をした」というところがポイントです。

養子縁組をすることにより再婚相手の扶養対象となるためです。

減額の程度については、再婚相手の収入に対応します。場合によっては免除も認められます。

元配偶者の収入が増加した

元配偶者の収入が増加した場合も減額をしてもらえる余地があります。

この事情変更を理由とするには、大幅な収入アップがなくてはなりません。「アルバイトを続けていたが正社員として就職して収入が倍増した」「起業をして大きな資力を得た」といった場合には認められるかもしれません。

しかしながら、養育費に関する取り決めにおいてこうした収入アップを見込んでいたのであれば請求は認められにくくなります。

減額請求が認められないケースとは

続いて、減額請求が認められないケースをいくつか紹介していきます。

意図的な収入の減少があった

支払義務者の収入減は支払額を下げる要因になり得ることを説明しました。しかし予見可能性が請求の可否に大きく関わるのであり、逆に言うと予見できるかどうかというレベルではなく意図的に収入を減らしたのであれば請求は受け入れられないでしょう。

支払いをしたくないからといって故意に収入が減るような行動を起こしても、支払義務はそのまま残ります。

子どもとの面会ができないことを理由とする減額請求

離婚後、子どもとの面会を定期的に行うとの約束を交わしたものの、面会をさせてくれなくなるというケースも珍しくありません。

そこで支払義務者としては「養育費を支払っているのだから面会をさせてくれ」「面会をさせてくれないのなら支払いたくない」と考えることもあるでしょう。

しかしながらこの要求は受け入れられません。なぜなら面会交流とはそもそも子どもの権利なのであり、別居した親が持つ権利ではないからです。子どもの顔を見たい親の願望を叶えるために行われるのではなく、子どもの成長のために行われているのです。

相場より高いことを理由とする減額請求

養育費の金額などの取り決めは、当事者の話し合いを基本として決定します。

そこで、後から「この金額は相場より高いから下げたい」と言っても当然には受け入れられません。

そのため養育費の話し合いをするにあたっては、事前にある程度相場を把握しておくことが望ましいです。

そして相場に着目するだけでなく、本質的には子どもの養育のために必要な金額を知ることが大切です。実際に支払われているのは月に数万円程度というケースが多いものの、大学を卒業するまでの子育て費をトータルで考えれば月あたり10万円は必要と考えられています。

養育費の減額請求をする方法

それでは、減額請求が認められると考えられる事情の変更がある場合、どのような方法で減額請求をすれば良いのかを説明していきます。

当事者間で話し合う

まずは当事者間、つまり元夫婦間で話し合いを行いましょう。

話し合いで解決すれば特別な手続を行う必要はありません。減額したい旨伝え、その理由等を相手方に説明、これに納得が得られれば交渉は成立です。交渉内容を書面に取りまとめ、公正証書を作成すればより安全です。当事者を拘束するより強い効力が働きます。

ただ、なかなか個人的に話を持ち掛けても簡単に受け入れてくれるとは考えにくいです。病気で動けなくなったなど、誰が見ても減らさざるを得ないような事情がなければ難しいでしょう。減額が相当な状況であっても、法律の素人同士だとその判断ができません。

裁判所に調停を申し立てる

話し合いで解決ができないのであれば、裁判所に養育費の減額に関する「調停」を申立てましょう。調停でも最終的には当事者の合意が必要なのですが、専門知識を持った調停委員が間を取り持ってくれますので、意見が対立していたとしても調停で解決できるケースは多いです。

ただし、調停を申し立てるのには若干の費用がかかりますし、単なる協議より手間がかかります。調停の申立書の作成、戸籍謄本や事情変更を示す資料なども準備しなければなりません。

審判による判断を受ける

ほとんどのケースでは調停までに決着がつきます。

しかしどちらも一切譲歩せず、強く対立し続けているときには調停でも解決ができません。このようなときには減額に関する「審判」へと移行します。

審判では、裁判所が養育費として妥当な金額を決定しますので、どちらかがそれを納得するかどうかに関係なく結論が出されます。その判断をする裁判官も主観的に判断することはなく、提出された資料を確認し、客観的な判断を下すことになります。逆に言うと、説得的な資料を提出できなければ希望通りの減額は認められませんし、そこをきちんと対応することで強制的に減額をすることも可能となります。

なお審判を要する場合には数ヶ月の期間がかかるということは覚悟しておく必要があります。

養育費の減額請求にあたり知っておくべきこと

最後に、養育費の減額請求をするにあたり以下の点を整理しておきましょう。

成功するかどうかはケースバイケース

減額が認められる・認められないケースを挙げましたが、これらはあくまで一般的な傾向に過ぎず、絶対的な指標ではありません。減額の可否は個別に判断していく必要がありますし、画一的に判断をすることはできません。

そのため上に挙げた例にあてはまっていても異なる結果になることは起こり得ます。

勝手に減額していると差し押さえを受ける

きちんとした手順を踏んで減額請求を行う必要があります。

勝手に金額を減らしていると強制執行を受ける可能性もありますので要注意です。自宅や自動車などを差し押さえられ、換価したお金により勝手に減らした分を補充されることもあるということです。

近年は法改正によりその強制執行もやりやすくなっています。財産開示手続が整備され、差し押さえもスムーズにできるようになりました。

そのため不満がある場合でもまずはルールに従い、適正な手順を踏んで減額してもらいましょう。

弁護士からの請求が効果的

適正な手続にて有利に話を進めるためには弁護士への相談・依頼が大切です。

どのような事情があれば認められるのか、どのような伝え方をすれば認められやすいのか、どの程度の減額まで受け入れられそうか、といったことが的確に把握できます。代理で請求をしてもらうこともできますので、これにより相手方に本気度も伝えることができます。

さらに、もし審判まで進んだとしても安心して手続を進めていくことができます。資料の準備、主張の仕方など、法律のプロだからこそできる対応を取ることができるのです。